「ピロリ菌」という名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
胃潰瘍や胃がんなど、胃の病気を引き起こす真犯人として
注目が集まってきている細菌のさとをいいます。
近年では、保険診療の範囲が拡大されたことから、
ピロリ菌の除菌治療を行う方も増えていると言われます。
どんな菌?
感染するとどうなる?
病気との関係とは?
除菌は可能?
ピロリ菌の気になる知識をまとめました。
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目次
ピロリ菌とは
ピロリ菌はなぜ胃の中で生息できる?
ピロリ菌の発見
ピロリ菌感染の原因
ピロリ菌に感染すると?
ピロリ菌と病気
ピロリ菌の検査
ピロリ菌の除菌
まとめ
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2019年11月22日更新
ピロリ菌とは
ピロリ菌は、正式名を「ヘリコバクター・ピロリ」と言います。
らせん状を意味する「ヘリコイド」と、細菌の「バクテリア」、
また胃の出口付近(幽門)を表す「ピロルス」からその名がつけられたもので、
その名の通り胃の幽門部に多く生息するらせん状の細菌です。
大きさはおよそ3.0~5.0μ(ミクロン)。(1μは1000分の1mm)。
「べん毛」と呼ばれるしっぽのような毛を数本持っています。
ピロリ菌は胃粘膜の中に生息しています。
そしてべん毛を回転させることにより、スクリューのように素早く粘膜の中を移動します。
ピロリ菌は胃粘膜を攻撃して炎症を起こす(慢性胃炎)と言われており、
そこから胃潰瘍や胃がんといった胃の病気が進行することが恐れられています。
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ピロリ菌はなぜ胃の中で生息できる?
胃では、食べ物の腐敗を防ぐために胃酸が分泌されています。
胃酸はpH(ペーハー)1~2の強力な酸性液です。
胃の中に入ってきた細菌はこの胃酸によって殺菌されてしまうため、
通常胃の中に細菌は存在しないと考えられてきました。
しかしその常識を覆したのが、ピロリ菌でした。
ピロリ菌は、「ウレアーゼ」という酵素を持ち、
これによって胃の中の尿素を分解してアンモニアを生成します。
アンモニアはアルカリ性なので、胃酸は中和され、生息可能な状況となるのです。
ピロリ菌の「べん毛」の先には袋状の物体が付いており、
べん毛を胃酸から守っていると言われています。
またピロリ菌は胃の中でも胃酸の弱そうな場所をサーチする能力があるとの説もあります。
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ピロリ菌の発見
ピロリ菌は、1982年、オーストラリアの医師マーシャルとウォーレンによって発見されました。
胃の中にらせん状の細菌がいるのではないかということはそれ以前から言われていましたが、
胃の中に細菌は存在することができないという定説により、
この菌の存在は明らかにされていませんでした。
ピロリ菌は通常の細菌よりも長い培養期間を必要としたため、培養は非常に困難でしたが、
この2人はついに培養に成功しました。
その後、マーシャルはこの菌を自ら飲み込むことによって人体実験を行いました。
摂取後、彼の胃粘膜にはピロリ菌の生息が確認され、
内視鏡的に急性胃炎が認められたということです。
こうして、胃炎や胃潰瘍の原因としてピロリ菌が大きく関わっているということが
広く認識されるようになっていったのです。
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ピロリ菌感染の原因
ピロリ菌の感染率は、一般的に年齢が高くなるにつれて上昇する傾向があると言われています。
日本では、20代のピロリ菌感染率は20%以下であるものの、
50歳以上の方では約60~80%が感染しているとも言われています。
これは、高齢者がピロリ菌に感染しやすいということではありません。
反対に、ピロリ菌に感染しやすいのは胃が未発達な5歳以下の乳幼児であると言われています。
今の50歳以上の方が乳幼児だった当時は上下水道設備が今のように整っておらず、
ピロリ菌に感染しやすい環境であったと考えられています。
現代では衛生環境も整い、ピロリ菌に感染する可能性は極めて低くなりました。
日常生活で人から人へピロリ菌が感染する確率は高くありませんが、
乳幼児への食べ物の口移しなどは注意した方が良いでしょう。
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ピロリ菌に感染すると?
ピロリ菌に感染したからと言って、すぐに何らかの症状が現れるということはありません。
しかし胃の中では、菌によって少しずつ粘膜が傷つけられ、炎症を起こしていきます。
ピロリ菌がどのように胃炎を引き起こすのかということは
はっきりとわかっているわけではありませんが、
一つには、ピロリ菌がウレアーゼという酵素によって
胃の中の尿素を分解する際に生成されるアンモニアが、
胃粘膜を損傷させると言われています。
またピロリ菌に感染すると、免疫反応によって白血球が胃粘膜に集まり、
炎症を起こすという説もあります。
通常、胃は胃酸によって自分自身が消化されてしまわないよう、
胃粘膜を粘液のバリアで防御しています。
しかしピロリ菌によって胃粘膜が傷つけられると、胃酸の攻撃を直接受けることになり、
炎症を起こしてしまうのです。
従来、胃潰瘍や胃がんといった疾患には生活習慣やストレスなどが大きく関わっていると
考えられてきました。
しかしピロリ菌の発見によって、これこそが病気の大きな原因となっていることが
明らかにされました。
ただしピロリ菌に感染している人が100%病気になるというわけではなく、
保有している菌の性質や、その他の生活習慣なども関係することが考えられます。
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ピロリ菌と病気
ピロリ菌が関係していると考えられている病気には、次のようなものがあります。
・慢性胃炎
ピロリ菌に感染すると、胃粘膜の炎症が慢性的に続いた「慢性胃炎」となります。
慢性胃炎の状態が続くと、胃粘膜が薄くなる「萎縮性胃炎」となり、
胃液の分泌が十分に行われなくなることから食欲不振や胃もたれなどの症状が現れやすくなります。
日本では萎縮性胃炎の原因のおよそ90%以上がピロリ菌であると言われています。
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・胃潰瘍・十二指腸潰瘍
粘膜の一部が傷つき、損なわれてしまった状態を「潰瘍」と言います。
胃粘膜でこのような状態になると「胃潰瘍」、十二指腸で起こると「十二指腸潰瘍」となりますが、胃潰瘍では原因の約70~80%、十二指腸潰瘍では約90%以上がピロリ菌であるとも言われています。
潰瘍が進行すると穿孔性潰瘍と呼ばれる穴の開いた状態になり、
吐血や下血などの症状が現れるほか、腹膜炎を起こして生命の危険が生じることもあると
言われており、 注意が必要です。
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・胃がん
近年大きな注目を集めるようになっているのが、ピロリ菌と胃がんの関係です。
1994年、WHO(世界保健機構)はピロリ菌を胃がんの「確実な発がん因子」として認定しました。
現在、ピロリ菌除菌による胃がん感染率の低下は、現在医療の大きなテーマとなっています。
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ピロリ菌の検査
ピロリ菌に感染しているかどうかを検査する方法には、以下のようなものがあります。
・内視鏡検査
口から内視鏡を挿入して胃粘膜を観察し、採取した胃粘膜の組織を用いて検査を行う方法
・抗体測定方式
血液、もしくは尿を採取して、ピロリ菌に対する抗体の有無によって感染を調べる方法
・尿素呼気試験
特別な尿素を飲んだ後の呼気中の二酸化炭素の比率からピロリ菌の有無を調べる検査
ピロリ菌の治療
ピロリ菌検査によって感染が確認された場合、除菌治療を受けることが可能です。
その流れは以下のようになります。
まず、一次除菌療法として、胃酸の分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬)と、
2種類の抗菌薬(アモキシシリン、クラリスロマイシン)を1週間服用します。
服用後4週間以上の間隔を空けて再度ピロリ菌の有無を検査します。
この時点でピロリ菌が確認されない場合は、除菌成功となります。
一次除菌が不成功に終わった場合には、二次除菌療法を行います。
二次除菌にはプロトンポンプ阻害薬と抗菌薬のアモキシシリン、
もう1つの抗菌薬はクラリスロマイシンからメトロニダゾールに変更して服用します。
再び4週間以上の間隔を空けて検査を行います。
一次除菌による成功率は約70%、二次除菌まで合わせると約95%と言われています。
2013年に保険適用範囲が拡大され、従来の胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者の方、
早期胃がんを内視鏡で切除した方などに加え、内視鏡検査でピロリ菌感染胃炎が
診断された患者さんも保険診療が受けられるようになりました。
ピロリ菌除菌は胃がんの予防を始め、様々なメリットがあると言われていますから、
医師と相談の上、治療が必要かどうかを判断していくことが勧められます。
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まとめ
それでは最後に、ピロリ菌の基礎知識をまとめておきたいと思います。
・ピロリ菌とは、胃の幽門部に多く生息するらせん状の小さな細菌である
・ピロリ菌はアンモニアを生成することによって胃酸を中和するため、胃の中でも生息可能となる
・1982年にオーストラリアの医師2人によって発見され、
医師自らが被験者となり胃炎との関係が確認された
・日本では衛生環境が整っていない時代に感染が流行したと考えられており、
50代以上の感染率が高い
・感染しても自覚症状は少ないが、胃粘膜が傷つけられることにより、
様々な病気が起こりやすくなる
・ピロリ菌が原因となる病気には、慢性胃炎(萎縮性胃炎)、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、
胃がんなどがある
・感染の有無を検査するためには、内視鏡検査、抗体測定方式、尿素子機試験などが行われる
・ピロリ菌の除菌は胃酸分泌役と抗菌薬を用いて行われ、
二次除菌まででおよそ95%が除菌可能と言われる
参考文献:
Yahoo! ヘルスケア 「ヘリコバクター・ピロリ」
⇒ http://medical.yahoo.co.jp/katei/160225000/
日本経済新聞 日経Goodayセレクション 「胃の一生はピロリ菌に感染しているかどうかで決まる」
⇒ http://www.nikkei.com/article/DGXMZO83942860U5A300C1000000/
日本消化器学会
⇒ http://www.jsge.or.jp/citizen/2005/37kanto.html